毎週日曜日は、ボブ・ディランの各国盤シングルをご紹介しています。今回は番外編。ブート・シングルです。




このレコードは、ボブ・ディランの非公式盤、いわゆるブートレグEP『ROCKS & GRAVEL』です。カタログ番号は「BR E-84001」で、7インチ、33⅓回転、500枚限定のナンバリング仕様とされており、この盤には「473」という手書きの番号が入っています。収録されている音源はいずれも1962年のものですが、レコード自体が1962年に発売されたわけではなく、資料上では1980年代半ば、1985年頃にヨーロッパで制作された非公式盤とされています。
収録曲は4曲で、A面が「Baby Let Me Follow You Down」と「Talkin' John Birch Society Blues」、B面が「The Death of Emmett Till」とタイトル曲の「Rocks & Gravel」です。ジャケット裏面には音源についての説明もあり、A面2曲とB面1曲目の3曲は、1962年10月にニューヨークのFM局WBAIで放送された「Billy Faier Show」から採られたものとされています。当時のディランはまだ21歳で、『The Freewheelin' Bob Dylan』が発売される以前の時期にあたり、フォーク・シンガーとして頭角を現し始めた若き日のディランを記録した貴重な音源です。
この盤で特に興味深いのが、B面最後に収録された「Rocks & Gravel」です。ジャケットには「the promotional edition of Freewheelin', N.Y. 11/14/'62」から採られたと記されています。『The Freewheelin' Bob Dylan』は1963年の正式発売に至るまでに収録曲が変更されており、初期の構成には「Rocks & Gravel」のほか、「Talkin' John Birch Society Blues」「Let Me Die in My Footsteps」「Rambling, Gambling Willie」など、最終的な市販盤から外された曲が含まれていました。そのため、差し替え前の曲目を収録したごく少数のLPは、現在では「withdrawn version」と呼ばれ、ディラン・コレクターの間では伝説的な存在になっています。「Rocks & Gravel」は、まさにこの「幻の『Freewheelin'』」を象徴する曲の一つなのです。
したがって、この『ROCKS & GRAVEL』は、単に未発表音源を寄せ集めたブートレグというよりも、1962年というディランにとって非常に重要な時期に焦点を当て、ラジオ出演時の音源と『Freewheelin'』初期版に関係する音源を7インチ盤にまとめた、かなりマニアックなコレクター向けレコードといえます。
ジャケットも非常に印象的です。表面にはトランペットを手にした若いディランの写真が大きく使われ、裏面も曲名、音源情報、「500 NUMBERED COPIES」という表示、カタログ番号などを記しただけの非常に簡素な作りになっています。こうした素朴な装丁も、正規レコード会社の商品とは異なる、1980年代のブートレグらしい雰囲気をよく伝えています。
なお、「500 NUMBERED COPIES」と明記され、実際にこの盤にも「473」という番号が振られていますが、非公式盤ですので、正規レコード会社のような生産記録が残されているわけではありません。そのため、本当に500枚だけがプレスされたのかについては慎重に考える必要があります。ただし、このナンバリング仕様の『ROCKS & GRAVEL』自体はディランのブートレグ資料や中古市場でも確認されており、コレクターの間では500枚限定盤として知られています。
このレコードの最大の面白さは、1962年の若きボブ・ディランと、幻となった初期版『The Freewheelin' Bob Dylan』の世界を、一枚の小さなレコードに凝縮していることだと思います。「Rocks & Gravel」をわざわざタイトルに掲げているところから見ても、一般のリスナー向けというより、『Freewheelin'』の成立過程や未発表音源について知っているディラン・マニアを強く意識して制作された盤なのでしょう。
正規盤としての価値とはまた別ですが、No.473という具体的なナンバーが残っていることも含め、ボブ・ディランの音源を追い求めた1980年代のコレクター文化を今に伝える、なかなか興味深い一枚です。




